7.2.15

スバールバル 2013年夏(3)

アザラシに限らないが、血は空気に触れるとすぐに凝固して、絹ごし豆腐のような質感になる。


グリーンランドでも思ったのだが、血の色はおもしろい。濃く鮮やかで、周りの風景とは異質の色だ。これがもっと南だったら、果物や花の赤があったかもしれないが、それでも、都会で使われている印刷物やデコレーションの真っ赤な色は、果物や花よりも、流れ出たばかりの血の色に近いような気がする。

8月30日だか31日は、知人の結婚式だった。招待されていたのに、わたしはこの旅のために出席できなかった。そこで、彼女にむけて、この風景の中にグラフィティのようにメッセージを書いて、写真に収めてプレゼントしようと思いついた。もっともよい素材は、この赤い血のように思われた。内臓のピンク色もなかなかよかった。苔や石の色は、似かよっていて、超大胆すぎるこの背景に負けてしまうのだった。




ヨルンたちは、サンプルを取った後の内臓はその場に捨ててしまう。(筋肉や皮は、持って帰って犬ぞりのドッグヤードにあげた)。それをもらって、結婚式にふさわしいのはハートマークかな?と、地面に形作って写真におさめた。


フランスに帰国後、結婚した知人は厳格なベジタリアンで、「かわいそうだから」という理由で、頭のついたものは出汁でも粉末でも一切食べないという生活者だということを思い出した。それにあらためて写真を見直すと、そこには何か自分の狂気のようなものが写り込んでいる気がして、プレゼントは結局あげずじまいだ。かわりに、この何だかわからないが写り込んでいる、自分の世界の捉え方の本質のようなものが、もっと見たくて、もう少し同じような作業を繰り返そうと決意した。