遠くにポツンと見える家から、やたらと大きな音量のテクノが聴こえてきた。ずいぶん大きな音だった。窓が開いていた。周りに何もなさすぎて、音はこだますることもなく不気味にまっすぐ響いていた。流行ってもいない知らない曲だった。小屋の中は見えなかった。でも、それをかけているのがどんな人でどんな気持ちか私にはわかった。部屋の中の様子も飲んでる飲み物もわかった。
私はこの音の風景のことを、どう書いていいかわからない。ただ、その時、人間は不平等だと思った。
また歩いていると、年配の女性とすれちがった。顔が祖母に似ていたので驚いた。なぜか向こうも私を見ていた。ニコニコして何か話かけてきた。意味はよくわからなかった。お茶でも飲んでけと家に招いてくれている気がしたが、確信は持てなかった。シワのある色白の肌や、グレーの目や髪の毛、縦長の耳が祖母にそっくりだったが、お腹だけが妊婦のようにポッコリ膨らんでいた。
肝硬変だった。後で父に聞いた。寒さと退屈に対抗して、強いアルコール飲料を多量に飲み続ける結果、住民は高い確率でアルコール性肝硬変を発症する。お腹の腫れは腹水で、もう重症だと言った。
夕方、といっても夏なので日は沈まなかったが、歌うような犬の遠吠えが一斉に響いた。犬がこんな声で鳴くだろうかと疑問に思うほど、吠え声の表情は豊かだった。そして大きかった。もし、これは狂人が叫んでいるんだと言われたら、きっと信じた。