5.1.15

イトコトルミット(2)

特にすることもなく、適当に高台に登った。なぜ船で外へ出られないかわからないほど天気が良かった。たいして高くもなかったが、そこから集落全体が見渡せた。どこに誰がいるのか肉眼で見える。人口500人っていうのは、見た感じこのくらいなんだなあと思った。おもちゃみたいだった。色は黄色かえんじだった。全部同じような形の小さい小屋だったけど、その中に郵便局や、警察や、監獄まであるらしい。

郵便局には、集落の唯一の公衆電話があった。普通の電話が一室にポンとおいてあった。そこから日本の母に電話した。通話後、かかった金額を窓口で言い渡される。別に高くはなかったと思う。通話の質は思ったより悪くなかった*が、良くもなかった。(*エコーがひどくて会話が成り立たないのに3分4000円とかした昔の国際電話に比べて。)

地面は硬い石の瓦礫でできていた。サーモンピンクやうす緑など、ちょっと不思議な色をしていた。拾ってみると、斑点があったり、うっすらと銀色に光っているのもあった。動物のフンや骨がいたるところに落ちていた。骨は犬の食べ残しだろう。あちこちにいる巨大な犬たちは、つながれているのもいたし、放し飼いのもいた。毛がボサボサで愛想がなく、1メートル以内に近付いてもまったくこちらに興味を示さない。

小腹が空いて小屋に戻った。ちょうどおやつの時間帯だった。チョコレートを探したが、誰も持っていない。じゃあまたスーパーに行ってくると告げると「もう閉まった」と言われた。一瞬意味がわからなかった。営業時間が10時から12時の二時間なのだった。


結局、一人が日本から持ってきたチョコを分けてもらった。彼は、小屋のポーチに腰掛けて日光浴をしながら、本を読んでいた。急に、彼の持っている本やチョコレートが、とんでもなくぜいたくで、貴重なものに見えた。




冬には、二階建ての小屋がすっぽりと雪に埋もれる。強い風が吹いて、荷物を運ぶ頑丈なソリが凧のように吹き飛ばされる。強風の中で、犬は雪に埋もれて丸くなって眠る。