その時私は初めて腫瘍に怒りを感じた。勝手に人の体に巣食っておいて、頭が悪いので勝手に死んでいる。
私の腫瘍は大きくなりすぎて中身が死んでいた。がん細胞はバカなので、たとえばみかんのように、「外界から身を守る皮を作る細胞」とか「水分や養分を蓄えるための実を作る細胞」とかに分化することができない。ひたすら増殖し、そのうち内部に酸素が行き届かなくなって死んでいく。
そのために私は再手術になった。生検したものの、採取した細胞が死んでいて、結果が出せなかったのだった。開いたり閉じたり革ジャンかよ。かなり詳しい説明を受けるまで、細胞が死んでいたのは医師かスタッフがサンプルをほっぽらかしてたせいじゃないのかと疑っていたので私はそう言った。私の体が革ジャンだとして、開け閉めするたびに痛みを感じるとして、でもその中身は腫瘍だけじゃなくて全部が実は得体が知れない。得体の知れない臓物が数十キロ詰まった革ジャンが私か。